病院は何を見ているのか🏥
シャドーITと薬機法のはなし
はじめに
お疲れ様です
アースキーです😊
前回、個人開発した院内向けの計算ツールが、技術的には問題ないのに病院で 「院内では使えません」 と却下された、という体験を書きました
(前回の記事はこちら)。
セキュリティは固めた。それでも、通らなかった。
あのとき整理した 「技術の壁」と「組織の壁」は別レイヤー という話、実はまだ続きがあります。
今回は「病院側は、何を見ているのか」を、制度の側から調べた記録です。
その続きを、順番に書いていきます。
1. まだ、何か引っかかっている🤔
リジェクトの理由は、もう分かっています。
法人のツールじゃないこと。
正規の手順を通っていないこと。
でも、頭では分かっていても、まだ何か引っかかっていました。
「オフラインだし、個人情報も入れていないのに、なんでそこまで慎重なんだろう」 という感覚が、消えなかったんです。
それなら、と決めました。
今度は体験談ではなく、病院側が見ている制度そのものを調べてみることにしたんです。
漫画では、この解説パートをクリプトニンジャよりシンラ(制度に詳しい案内役)とトリカに演じてもらっています。
2. シャドーITって、何のこと❓️
調べ始めて最初にぶつかったのが、 「シャドーIT」 という言葉でした。
・管理部門(情報システム部門など)が把握していないIT機器・クラウドサービス
・従業員が独自の判断で業務に使ってしまう状態
・私物クラウド、未承認のAIツール利用などが典型例
便利さの裏で、管理の目が届かない場所が生まれる。
正直、最初は他人事だと思って読んでいました。
でも、そうではなかったんです。
3. 実は私も、AIに聞いている📳
服薬指導の記録を書くとき、この病態・この状態でどういうアセスメントを書けばいいか、あるいは普段の医師からの薬の相談ごとを調べるとき。
気づけば、Google検索ではなくAI(スマホのClaudeやChatGPTアプリ)に聞くようになっていました。
患者さんの個人情報は入れていません。
あくまで病態・薬剤の一般論としての相談です。
でも、シャドーITの定義を読みながら、ふと気づいたんです。
「個人情報は入れていない。けど、これも管理の外側の話だよね」
これは実は、以前書いた個人情報保護法改正案と医療AIの記事で語った「守るとつなぐの設計を、個人の小さな実験から作る」という話と、地続きでした。
理念だけでなく、自分自身がその実践者だったんです。
4. それも、シャドーITだった🖥️
便利さそのものが悪いわけではありません。
でも、個人情報を入れていなくても、「管理部門が把握していない利用」であることに変わりはない。
それがシャドーITという言葉の指している状態でした。
責められているわけではないのに、静かに刺さりました。
私も、その一人だったんだ、と。
他人事のつもりで調べ始めた言葉に、自分が含まれていました。
5. 病院の“慎重さ”には、法律の裏付けがある⚒️
では、なぜ病院はシャドーITにここまで慎重なのか。
調べてみると、次の3層の裏付けがありました。
・ 薬機法 (=医薬品や医療機器のルールを定めた法律): 独自の判断ロジックを持つプログラムは「医療機器」に該当しうる(該当性の確認が必要な領域)
・ 医療法施行規則 第14条第2項 (2023年〜): 病院の管理者はサイバーセキュリティ確保が法令上の義務
・ 厚労省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン: 管理部門が把握していない私物端末・未承認ツールの利用を統制する実務ルール
出典はこちらです。
・ プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン(PMDA掲載)
・ 医療法施行規則(e-Gov)
・ 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(厚労省)
「慎重」は思考停止ではなく、法の設計でした。
前回の記事で見た「組織の壁」の正体が、ここでもう少し具体的になった感覚があります。
6. どこからが「ダメ」なの?🤔
法律の枠組みは分かりました。
次に知りたいのは、境界線です。
何を作ったら、医療機器の規制側に入るのか。
ガイドラインを読み進めると、答えは意外とシンプルでした。
分かれ目は、単純な計算か、独自の判断ロジックを持つか。
拍子抜けするくらいシンプルな軸でした。
7. 該当性の分岐と、具体的な3つの事例
厚労省のガイドラインには、もう少し具体的な線引きが書かれていました。
・利用者が自分で検算できる四則演算 → 非該当の方向
・独自アルゴリズム・関数電卓以上の高度な計算 → 該当の方向
さらに、判断のヒントになる事例も3つありました。
・ 画像を独自アルゴリズムで解析し、疾病の可能性を個人に提示するもの
→ 該当の方向
・ 検査結果を独自アルゴリズムで解析し、将来の発症リスクを個人に提示するもの → 該当の方向
・ 入力値と集団の統計データを比較し、診断との誤認を与えない形で提示するもの → 非該当の方向
境界線上にあるものを、断定はできません。
迷ったときは、窓口に確認するのが一番安全です。
8. 「私のツールは、四則演算だけだ」
この軸で、自分のツールを振り返ってみました。
使っている式は、学会のガイドラインに載っている公知の推算式。
計算は、四則演算だけ。
方向としては、非該当寄り。
でも、調べていて一番ハッとしたのは、その先でした。
使い方の書き方次第で、グレーになる。
同じ計算式でも、「参考値です」と書くか、「これで判断してください」と書くかで、見え方はまったく変わる
技術の中身だけでなく、使用目的の書き方そのものが境界線を動かすんです。
つまり、中身が同じでも、言葉ひとつで方向が変わるんです。
🧪 今日の特効薬
自分のアイデアを制度に照らせるよう、当てはめチェックリストを作りました。
保存して使ってください。
① 計算の中身:単純計算か、独自ロジックか
② 情報源:公知の情報(教科書・ガイドライン)どおりか、独自の指標を加えていないか
③ 対象・出力:誰が見て、何に使う出力か
④ 使用目的:参考値か、最終判断に使うか
境界線上にあるなら、まず相談窓口へ聞いてみる
個別の症例・個人情報・最終判断をAIやツールに丸投げしない、という前提は変わりません。
おわりに
境界線上にあるなら、相談窓口へ。
それも、作る側の仕事のうちだと、今回調べてみて分かりました。
作るのは自由。
届けるには手順がある。
—それは前回の記事で得た結論と同じです。
でも今回、もう一つ分かったことがあります。
手順を知らないまま使ってしまう側にも、自分がいたということです。
シャドーITは、遠い誰かの話ではありませんでした。
服薬指導の合間にAIへ相談していた私自身も、その一人でした。
じゃあ次は、ちゃんと聞くところから。
あなたの現場にも、まだ名前のついていない「シャドーIT」はありませんか?
もしこの記事が少しでも役に立ったら、身近な医療従事者の仲間やSNSでシェアしていただけると嬉しいです。


















個人情報を除外したAIの活用であっても、組織の管理外であればシャドーITにあたるという自省のプロセスにハッとさせられました。「便利だから使う」という個人の感覚と、病院が背負っているセキュリティ上の責任の差がどこから生まれているのか、法的な裏付けをもとに整理されていて大変勉強になります。現場の熱意と組織のガバナンスを繋ぐための重要な視点だと感じました。
病院の薬剤部の医薬品情報室に所属してるものです。アプリをつくっていこうかなぁと考えていたところなので、非常に学びになりました!